「朝日ジャーナル」1982/12/17号より転載。「猫へ」を聞いた後だったか、前だったか覚えてませんが。当時、おれが原マスミについて何かしら知りうるという機会はこのレビューくらいしかなかった。
文化ジャーナル 音楽 ”根暗(ネクラ)”を超える新人・原マスミの詩
あるレコード会社宣伝マンが嘆いていた。
「ベテランフォーク歌手のニューアルバムをプロモーションしてるんですが、" ああ、この歌手根暗だからね"の一言で、満足に聞いてもくれない人がいるんです」
"根暗(根が暗い、反対語は根明)”という言葉は、タモリ、九十九一といったブラックな笑いを信条とするコメディアンによって流行語となった。その芸風からも察することができるように、この言葉は本来、時代の気分に対する批評の意味を持っていた。
だが、この言葉が広まるにつれ、逆に”軽さに流れる風潮”を無条件に正当化する形で使われる形が多くなった。冒頭のエピソードに見られる根暗全面拒否という態度も、そうしたひとつの例だろう。
ただし、現実には”根暗対根明の全面対決”というきれいな図式が描けるわけでもない。現に根暗流行の張本人、タモリ、九十九一、そしてビートたけしといった人気の高いコメディアンたち自体が根暗的存在だし、根明のシンボルというべきクリスタル的軽さが。多分に絵空事であることも、決して自覚されていないわけでもない。
「根暗という言葉がはやりだしたころは、ちょうど世の中が思ったるくなってきていた。差別用語や差別ギャグの中には、みんなが自分の中に持っているものを、口に出すことで安心しようという部分があると思う。自分の中にある重いものを、言ってしまうことで軽くしているんじゃないかな」と、この流行を分析するのは、根暗と並ぶ流行語”ビョーキ”の言い出しっぺでもあるイエロー・マジック・オーケストラの細野晴臣である。
若手音楽評論家の高橋竜一氏もこうした気分は、音楽の世界にも大きく反映していると言う。
「いま、メッセージのある歌を好きだというのは恥ずかしいというムードが、聞き手の中にあるようです。だから、そうした音楽を根暗という枠に押し込んでしまおうとしてるんでしょうね」
それは根明の音楽とは何なのかとえば、聞いていても意見の対立が起きない類の音楽だ。例えば、生き様の入り込まない純情フォーク、ムードのあるシティポップスなど。「いま聞き手に、意見の対立を楽しむ余裕がない。自分の好みへの執着が強すぎて、他人と分かち合うことができにくくなっているんだと思います」(高橋氏)
そうした意見の対立を見ないためには、根暗、根明にカテゴライズしておくのは便利な方法ではある。
しかし、対立がないということは刺激も少ないということである。根暗の枠に入る音楽の方が面白く、リアリティーがあるというのは自明の理といえるだろう。
新人シンガー・ソングライター原マスミの『イマジネイション通信』(ユピテルレコード)というアルバムは、こうした状況に投じられた試薬とも言うべき作品だ。
これまでの歌謡曲にもニューミュージックにもなかった幻想的で感覚的な“詩”を、男とも女ともつかぬ声で(本人は男性)、しかもつぶやくように歌う。サウンドも、これまでのロックパターンからはみ出している。つまり、何々に似ていると言うことのできない全く独創的な音楽(言葉の正しい意味でのニューミュージック)なのだ。それでいて、この音楽は確実に現代にその存在を主張している。
「彼のテープを初めて聴いたとき、すごいと思ったんです。でも、どうやれば売れるのか見当がつかなかったし、いまだにわからないんです」とディレクターの鈴木祐二氏が言うように、このアルバム”感じる”か”感じないか”でしか評価の方法がない。
この不思議な魅力を持ったアルバムを、はたしてどう受け止めるか。それはそのまま、今の聴き手のあり方を、ひとつの側面から測定することになりそうな気がする。
もちろん、このアルバムが巨大なリアクションを起こすことはないだろう。しかし、定義のしようのない面白さを、そのまま面白さとして受け入れることなく、常に無視、あるいは根暗の指定席に送り込む姿勢を続けることですましている限り、音楽のおもしろさ、楽しさも限定されたものにしかならない。
『イマジネイション通信』は、、よりどん欲に音楽を楽しむためのヒントに満ちたアルバムだ。(前田祥丈)
原マスミの歌はラブソングで歌詞にはユーモラスな面も多いし、エロチックな表現もある。それに彼の声がのっかって、さらにBananaさんをはじめとして先鋭的なミュージシャンによる多様なジャンルにまたがったアレンジと演奏で飾られると、なんともカテゴライズしがたい、「原マスミの音楽」としか言い表せない音になっている。それは例えばギター一本、弾き語りで奏でられても同じなんだよな。
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